
はじめに ― なぜ今、不動産の法人化が注目されるのか
福岡市内・近郊で不動産投資を行っているオーナーの方から「家賃収入が増えてきたので法人化を考えている」「相続を見据えて法人を作りたい」というご相談が年々増えています。
本連載では、福岡で不動産法人を設立するための知識と実務を、全5回にわたって公認会計士・税理士の立場からわかりやすく解説していきます。
第1回は、そもそも「不動産投資の法人化」とは何か、個人所有との違い、そして法人化のメリット・デメリットを整理します。
法人化を漠然と検討されている方は、まず本記事で全体像を掴んでください。
不動産投資の「法人化」とは
不動産投資の法人化とは、個人で所有・運営している賃貸物件を、新たに設立した会社(株式会社や合同会社など)を通じて運営する形に切り替えることをいいます。
具体的なスキームには複数のパターンがありますが、大きくは次の3つが代表的です。
- 管理委託方式:個人所有のまま、管理業務だけを法人に委託する
- サブリース(転貸借)方式:法人が個人から建物を一括借上げし、入居者に転貸する
- 所有方式(法人所有):物件そのものを法人名義で所有する
いずれの方式を選ぶかで、税務効果や設立手続きの複雑さは大きく変わります。詳しくは第3回で解説します。
個人所有と法人所有の主な違い

| 項目 | 個人 | 法人 |
|---|---|---|
| 適用税率 | 所得税(累進5〜45%)+住民税10% | 法人実効税率 約23〜34% |
| 損失の繰越 | 青色申告で3年 | 10年 |
| 所得分散 | 原則本人のみ | 家族役員への報酬で可 |
| 経費の幅 | 限定的 | 幅広い(生命保険・退職金等) |
| 相続税対策 | 個別評価 | 株式評価で軽減余地 |
| 赤字時のコスト | 原則なし | 均等割 年7万円〜 |
所得税は累進課税のため、所得が増えるほど税率が上がります。一方、法人税の実効税率はおおむね一定です。この税率差こそが、法人化を検討する最大の動機になります。
法人化の主なメリット

1. 税率差による節税
個人の課税所得が一定水準を超えると、法人税率のほうが低くなります。福岡で複数物件を運用するオーナーであれば、毎年数十万円〜数百万円規模の税負担軽減につながるケースもあります。
2. 所得分散による世帯全体での節税
家族を役員にして役員報酬を支払うことで、世帯全体の所得を分散できます。給与所得控除も活用できるため、世帯ベースの税負担はさらに圧縮できます。
3. 経費計上の幅が広がる
役員退職金、生命保険、社宅、出張日当など、個人では認められない経費を法人では計上できる場面が増えます。
4. 相続税対策として有効
個人で大きな不動産を保有し続けると、相続時に評価額がそのまま課税対象になりますが、法人化によって株式の評価へ転換することで、引下げの余地が生まれます。
5. 金融機関からの信用力
事業規模が拡大する場面では、法人のほうが融資を引きやすい局面もあります。
法人化のデメリットと注意点

- 設立費用がかかる ― 株式会社で実費約25万円程度、合同会社で約10万円程度。司法書士・税理士費用を加えると30〜50万円程度。
- 毎期の運営コスト ― 法人住民税の均等割は赤字でも年7万円〜課税。税理士顧問料や決算料も発生。
- 社会保険の強制加入 ― 法人は原則加入義務があり、役員報酬を支払う場合は社会保険料負担が発生。
- 不動産の名義変更コスト ― 所有方式で既存物件を法人へ移転する場合、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得税が発生する可能性。
- 個人へ戻すのが難しい ― 一度法人化した不動産を再び個人に戻すには、再度の譲渡コストが必要。
つまり法人化は「やればお得」ではなく、規模・所得水準・将来計画を踏まえた総合判断が必要なのです。
次回は、その判断基準を具体的にお話しします。
第1回まとめ
法人化は、税率差・所得分散・相続対策など複数のメリットを持つ一方、設立・運営にコストと手間がかかります。「ある程度の家賃収入を継続して見込める」「相続を見据えた資産承継を考えている」といったオーナーに特に効果が大きい仕組みです。
次回は「いつ法人化すべきか」を所得水準・物件規模の両面から具体的な数字で解説します。
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